わだつみのうた

関西大学 葦
垣内 忠 詩・曲
大阪うたごえ創作委援助



序章

南遥か
黒潮さかまく太平洋に
凍てつく 満州の原野に
ああ 今もなお
ひびきわたる
望みなきいくさに死んだ
数万学徒の怒り

第1章 出征のうた

昭和18年10月21日
雨降る神宮に 集まった学徒
銃を持つこの腕が
怒りに震え
雨に濡れたこの顔に
憎しみの涙 流れ落ちる

 
御国のためと 志願させられ
学問を捨て 研究を捨てた
愛する人と 引きさかれ
希望ある人生を うばわれた
憎しみの涙 流れ落ちる

生らもとより 生還帰せずと
偽りの詠れ決意
見送る 父母の 悲しみの眼が
心の底につきささる
生きて帰れと 叫んでる


第2章 詠れの手紙
       
(朗読)

お母さん 元気ですか
これが最後の手紙になると思います
ペンを捨て銃をとらされてから
もう まる二年
私も一人前の兵隊になりました

上官の命令に忠実で
人をころすことを覚えた人形に

今日慰問袋が配られました
なつかしい 内地のにおい

欲しいのは 千人針じゃない
死ねという 手紙じゃない
僕が欲しいのは 幼い頃のやさしい心
血に汚されていない 清らかな手

でも母さん
夜が明ければ 
僕は母さんの知らない南の空で
母さんの半分しかない
短い人生を終えます・・・・・・


(女声合唱) 
田舎の冬は ことさら寒く
大雪が容赦なく
降りつもる
歳老いた 母の手では
雪かきも つらかろう

父をうばい 兄をうばい
そしてまた この私をも
母の手からうばったのは
それは戦争
それは 大日本帝国!!

軍国の母とあがめられ
ほめそやされても
この先母は 
独りで どうして どうして
生きていくのか


第3章 ひめゆりのうた(女声合唱)

その日も潮風が きもちよかった
私は好きだったおさげを切りました
さようなら私よ 
お前はこれから 戦場に行く
戦闘で倒れた兵士の看護のために

柔らかな包帯も薬も今はなく
傷ついた兵士と一緒に死ぬために
麻武仁の洞窟で血にまみれ
いだき合いながら
死を待つ32人の私たち

私の黒髪が この白い手が
私の青春が灰になりました
アメリカ軍の火炎放射器が
真赤な火を吹き 紙くずのように
やかれた私

愛する祖国と同胞のため
私はよろこんでこの身をささげた
でもこんなむごい むごい苦しみに
私の弟を 私の可愛い妹を
あわせたくない

もしもこの沖縄に平和が戻ったら
私の大好きなひめゆりの花を
島中いっぱいに花咲かせ
再び戦争にふみにじられないように
まもり育てて下さい

 
第4章 わだつみよ高鳴れ

暗黒のファシズム 過ぎしあとは
荒れた山河と しかばねのむれ
でも太陽は再び大地を照らす
平和の鳩が 大空を舞う


原爆に血塗られた 民族の怒り
焼け土の中から 立ち上がった学生
工場に畠に呼び交わし たたかいとった
わだつみのちかい
再び侵略と軍国主義許すまじ


不戦の誓いかたく 進みゆく僕ら
砲火に焼かれても 自由の火は消えず
平和と民主主義の砦めざし 
学園に 築きかためよう
何よりも人民の願いと幸せのため


愛する祖国の独立めざし
今こそうちたてよ 統一の旗を
工場に畠に呼び交わし 
スクラム組んだ 団結の力
新しい夜明け 迎える力

ああ あかつきの太平洋
金色に輝く わだつみのうねり
世界にアジアに 今こそ高鳴れ
今こそ 今こそ 高鳴れ